『 Au Revoir
― また 逢う日に ― (3) 』
「 あの ― いっつも今の ・・・ サトウ教授の講義、出席してますよね? 」
その女子学生は黒目がちの大きな瞳で ジョーをみつめている。
長い黒髪を無造作に背中に流している。
「 え あ ・・・ はあ ・・・ 」
「 あの ・・・お願いが・・・ あの・・・
先週の分 ・・・ ノート、写させてもらえませんか? 」
「 え・・・? 」
「 わたし 先週、出席できなくて ・・・ お願いできませんか。
すぐ コピーしてきますから 」
「 あ ・・・ ぼくのノートなんかよりも他の学生さんの方がいいですよ。
ぼくは聴講生なんです。 」
「 はい 知ってます。 でも 一番真面目に講義に出ているでしょ?
いっつも最前列の端っこで ・・ 熱心に聞いているもの・・・
同じクラスじゃないから 他の学科のヒトかな〜って思ってたんですけど 」
「 ぼく、理工学部の聴講生で ・・・ だからきっと専攻課程の皆からみれば
ノートなんて滅茶苦茶ですよ 」
「 え そんな事ないわ。 皆だっていい加減よ ・・・ サトウ教授は単位、
キビシイって有名だから人気ないし 」
「 え〜〜〜 そうなんですか?? すごく面白い興味深い講義だと思いますけど ぼく。
ほんと 楽しみにしているんです。 あ アナタは? 」
「 私? ・・・ ええ 興味あって履修したんですけど ・・・ ムズカシイわ 」
「 え アナタもそうおもいますか 」
「 ええ。 ですから ・・・ 一回でも休んでしまうと ますますわからなくなっちゃうし ・・・
でも先週は就活の関係でどうしても・・・・ 」
「 しゅうかつ? ・・・ ああ もうその季節ですね〜 」
「 ええ。 で すいません、 ノート・・・ 拝借してもいいですか 」
「 ぼくなんかのでよければ ・・・ あ 間違ってたらすいません 」
「 ありがとう! あ ・・・ わたし、理工学部機械学科三年の 半田 里音 ( はんだりおん )です 」
「 ぼくは 島村 ジョー。 あ こんな顔だけど日本人です、ぼく。 」
「 あら ステキね♪ 今 コピーしてきていいですか 」
「 そこのコーナーですよね? ぼく、図書館にゆくから 」
「 あ ごめんなさい! すぐに終わらせます! 」
「 一緒に行きます。 」
「 ・・・ ノート・・・ 盗んだりしません。 」
「 あ そ そんな意味じゃなくて ・・・ 通り道だからって思っただけで・・・
すいません、ぼくの言い方が悪かったかな 」
ジョーは慌てて ぴょこん、とアタマを下げた。
「 あ ・・ 私こそ・・・ ヘンなこと、言ってごめんなさい 」
女子学生も アタマをさげた。
「 あ は ・・・ 早くコピーしましょう。
あの〜〜〜 本当にマチガイ満載かもしれませんよ? 」
「 そ〜〜んなことないですってば。 シマムラさん、あの講義の受講生の中で
一番熱心だもの 」
二人は なんとな〜〜く堅苦しい雰囲気でコピー・コーナーに向かった。
一時間後 ―
「 ・・・ え〜と・・・ レポートの資料は ・・・っと 」
静かな熱意が籠る図書館で ジョーはカサコソ・・・ ノートやらプリントを
広げている。
「 あれ ・・・? これ ぼくのじゃないぞ? 」
ノートの間にプリントが一枚 挟まっている。
蛍光ペンでいろいろ書き込みがしてあるのだが・・・
「 ・・・ あ〜 先々週に配られた資料だよなあ ぼくのは ・・
こっちにあるもんな〜〜 あ これ・・・ あの子のかな ・・・ 」
ちょっと興味が湧いてそのプリントをしげしげと眺めてみた。
「 賑やかだな〜〜 色 いっぱい使って ― あ あれ? 」
一見 ポップな丸文字 絵文字 満載で落書き・・・ っぽかったのだが
「 え ・・・ これ ・・・ 基礎公式の発展形 じゃないか!
教授は 個別には書かなかったんだ ・・・ ぼくは後で調べておこうって
思ってて それっきりにしちゃったけど ・・・
彼女 ・・・講義中に 書いてた??? す げ ・・・ 」
どうやら彼女、ホンモノの リケジョ の様子だ。
「 え〜〜どうしよう・・・ 来週の講義まで持ってるってのもなあ・・
あ そうだ。 サトウ教授の研究室にとどけておけばいっか ・・・
帰りに教授館 寄ってこっと けど ・・・ すげ〜〜や・・・
彼女 優等生なんだなあ ・・・ ふ〜〜ん あ そうなんだ ・・・ 」
ジョーは 改めて彼女のプリントを眺めるのだった。
キャンパスの中を歩き教授館まで行き おっかなびっくりサトウ氏の研究室を訪ねた。
「 あの〜〜〜 入ってもいいですか 」
遠慮がちにノックする。
う・・・ 学部生じゃないぼくが 来てもいいのかな ・・
立ち入り禁止だよって怒られるかな
「 うお〜〜い 開いてるよ〜〜 」
陽気な声が返ってきた。 聞き覚えのあるサトウ教授の声 ・・・らしい。
「 は はい ・・・ あのぅ〜〜 」
ジョーは細めにドアとあけた。
「 なんだい? 院生のゼミは終わったから自由に入っていいよ 」
「 あ すません、 あのう〜 これを 」
「 ん? あ〜〜〜 きみ! いつも一番前のすみっこで熱心に聞いてる子だよね
えっと ・・・ あ そう しまむらクンだろ? 」
つっかけをひっかけて出てきたサトウ教授は ジョーを見るなり破顔した。
「 あ は はい・・・ しまむらじょー です
」
「 じょークンかあ きみ 聴講生だったよね? どこか他大学なの? 」
「 あ いえ ・・・ぼく、 大検とっただけなんで ・・・・ 」
「 ふうん? もったいないねえ〜〜 きみならウェルカムだなあ
来年あたり ウチの編入試験 受けたら? 」
「 え いえ とてもとても〜〜 あのぅ・・・ 」
「 あ すまんね、勝手にいろいろ聞いて。 なにか用事かい
質問とか大歓迎だけど? 」
「 あの ・・・ 質問できるほどじゃ ・・・ あの〜〜〜 このプリント・・
ぼくのじゃなくて。 理工学部のヒトのなんですけど・・・
よかったら渡していただけますか 」
ジョーは ノートの間から先ほどのプリントを指しだした。
「 うん? ・・・ あ〜〜〜 半田女史のだな〜〜
あ いいよ。 彼女、 ちょくちょくここに顔だすから 渡しておくよ。 」
「 ありがとうございます。 じゃ ・・・・ 」
「 あ〜〜〜 シマムラく〜〜ん 気軽に訪ねてきてほしいな
質問とかいつでも歓迎だよ〜〜〜 」
「 あ どうも〜〜 ありがとうございますう〜〜 」
ジョーは ぺこり、とアタマを下げると研究室を辞した。
「 ふうう ・・・ ともかくあのプリント 彼女の手元に戻るよな〜〜
よかった・・・ ふ〜〜ん 気さくな教授だったな〜〜
今度・・・ 質問に行ってみよう かな 勉強不足! なんて叱られるかも〜 」
彼は一人でクスクス笑いつつ 大学の正門へと歩き始めた。
なんだかわくわくしてきた。 もともと勉強は好きだった。
しかし彼の環境では高校進学が精一杯だったし
その後は ― とんでもない運命に翻弄され生き抜くだけで必死な日々だった。
今 純粋に勉強できる環境が ジョーはとてもとてもうれしくありがたく感じている。
「 ふ〜〜 ・・・ いいなあ ホント、来年 できればココ・・・ 受けたいなあ〜
あ 英語とかがんばんないとまずいかあ〜〜 」
ざわざわ ざわ ・・・ 大勢の学生が行き来している。
誰も ジョーを気にするものはいないし、彼は自然に学生たちの世界に溶け込んでいた。
「 ― あ? ・・ えっと しまむらクン?? 」
すれちがった女子学生が 立ち止まった。
「 ・・・ ? あ〜〜〜 はんださん! 」
「 きゃ〜〜 ドラマみたいな偶然ね〜〜〜 あ ノート、ありがとう!
と〜〜〜っても助かりました。 」
「 え いえ あ あの! プリント! 」
「 え? 」
ジョーは慌てて 経緯を説明した。
「 ぁ〜〜 え〜〜 わざわざサトウ教授のとこに届けてくれたの?
ありがとう〜〜〜〜〜 ごめんなさいね 」
「 いや ・・・ あの・・・ 迷惑だった? どこに届けていいかわからなくて・・
あの講義の先生のとこなら って思って 」
「 普通なら 学務部とかに渡してくれればマシッて方だわ。
しまむらクン 本当にありがとう 」
「 いや〜〜〜 」
「 ね サトウ研、 どうだった? わたし、ゼミも取っているのよ。 」
「 あは ・・・ 気さくな先生ですね 」
「 そうなのよ キビシイけどね〜〜〜 ね 来年はさ、ココの学生になって
サトウ研に入ったら? 」
「 いやあ ・・・ あ はんださんは・・・就活? メーカーとですか 」
「 え ああ 私、ホンネはね ・・・ 父の工場を継ぎたいの。 」
「 へえ ・・・? 」
「 小さな 板金加工の工場なんだけど・・・ つぶしたくないのよ
」
「 兄弟はいないんですか 」
「 ええ 私 一人娘なの、だからわたしが 」
「 すご・・・ 」
「 すごくなんかないわ。 いきなりは継げないでしょ、どっかメーカーで
ばっちり修業していずれは・・・・って思っているの。 」
「 すごいですね〜〜 」
「 そんなことないって。
しまむら君は? 将来の希望とかは 」
「 あ ぼく?
あ〜 ぼく 今 後見人になってくれた科学者の方の研究所を
手伝ってて そこで頑張りたいな〜って思っているんだけど 」
「 研究所?
うわ すご! 何の研究なさっているの?
あ JAXA とか? 」
「 あ あ〜 宇宙関係とはちがって・・・ えっと ろ ロボット工学 … 」
まさか サイボーグ工学 とは 言えない。
そんなことを言ったら アニメの見すぎ と思われるのがオチだ。
ジョーはかなり苦心して答えをひねりだした。
「 ええ?? すごいわあ〜 AIとかでしょう、最先端ね。
やっぱりシマムラクンは優秀なのね。 」
半田女史は 心底感心している。
「 いや ぼくはただの助手で ・・・ そんなにすごくはないです。 」
「 え〜 でもいずれは後を継ぎたいのでしょ? だから 聴講生で 」
「 あ は
ぼく 施設育ちで … 大検受かって 聴講生になったんです。
普通に受験したら この大学にはとても合格できないです、きっと。 」
「 そおお? 受験なんて 一種のテクニック勝負だから ・・・
実力とは入学後に磨くのね 」
「 そっか ・・・ はんださんは お父さんの工場を発展させたいんですか 」
「 ええ。 ごく普通の・・・ 零細な町工場なんだけど
そこをね ・・・ なんとかもっとIT技術とかを導入したいの。 」
「 へえ ・・・ 」
「 今までずっと・・・ あ 工場は祖父の代からなんだけど、継承してきた日本の
町工場の技術、それをね これからももっともっと続けてゆかなくちゃ って 」
「 ・・・ へえ ・・ 」
「 今 いる職人さん達のテクニックを途絶えさせてしまったら勿体ないの。
この国のモノづくりを支えてきたいろいろの ・・・ あ。 」
彼女は とつぜん言葉を切った。
「 ? なに? どうか した? 」
「 え ・・・あ ううん ・・・ ごめんなさい。こんなハナシ・・・
つまらないわよね・・・ 一人でしゃべりまくってごめんなさい 」
人通りの多いキャンパスの隅で 二人は話こんでいる。
彼女は しゅん・・・として俯いてしまった。
「 え〜〜〜 どうして?? ぼく ・・・ すごいな〜〜ッて 面白いな〜って
感心して聞いてたよ? 」
「 そ そう ・・・? 」
「 うん。 ごめん・・・ ぼく ・・ 女子学生ってオシャレとか カレシの話
ばっかしてると思ってた・・・ 」
「 え〜〜??? まあ そういうヒト達もいるけど・・・ 私って変人なんだって。」
「 変人?? なんで ? 」
「 女子トークとかしないからじゃない?
私が今 夢中になっているのは ― 早くキャリアを積んでウチの工場を
発展させてゆくこと なの。 」
「 そっか ・・ すごいなあ・・・ あは ぼくって同じことばっか言ってるね?
でお 本当にすげ〜〜って思ってる。 」
「 うふ・・・ありがと。 そういう風に言ってくれる男子って ・・・
しまむらクンが初めて。 ・・・ たいていの男子は ふ〜〜ん ・・・って
それだけで ・・・ 私 敬遠されてるの。 別に いいけど。 」
ちょっと寂しそうに彼女は笑った。
「 ぼくは! はんださんのこと、立派だな〜って思うよ!
はんださん ・・・ 目標をしっかり見つめてて ― とってもキレイだ! 」
「 え ・・・ まあ ・・・ 」
彼女は目をまん丸にしてジョーを見つめると ― ぷ・・・っと吹きだした。
「 そ〜いうコト、・・・直接 言う? 」
「 へ? あ ・・ あ〜〜〜 その〜〜 でもその〜〜キラキラしてて・・・
キレイだなあ〜〜って あ また ・・・ 」
「 うふふふふ ・・・ シマムラくんって 楽しい〜〜〜 」
「 え えへへへへ・・・ はんださん こそ ・・・ 」
二人は声を上げ笑った。
あ は。 このヒト、とってもキレイなヒトなんだ〜〜〜
けらけら笑ってるとこ、最高だな ・・・
― この笑顔 ・・・ 支えてくれるヒト、いればいいのに・・・
「 じゃ またサトウ教授のクラスでね〜〜〜 」
「 あ はい。 ぼく いろいろ教えてほしいこと、あって・・・ 」
「 あら〜〜〜それなら 教授に直接聞きましょ? 一緒にサトウ研 行こうよ 」
「 はい。 それじゃ 〜〜 」
「 じゃね〜〜〜 」
二人は 手を振りあい正門で左右に別れ ― その直後。
ズサ・・・・! わ 大丈夫??? わお〜〜〜
なにか滑った音と ワイワイいう学生たちの声が響いてきた。
「 ?? ・・・ あ〜〜〜 はんださん! 」
反射的振り向き ― 舗道の端に座り込んでいる半田女史を発見した。
「 大丈夫ですか??? 」
「 あ ・・・ シマムラくん ・・・ えへ・・・靴が滑って 転んじゃった・・・
いつつつ ・・・・
」
「 靴? ・・・ これですか? 」
ジョーはあらぬ方向に飛んでいる靴を取ってきた。
「 そ そう! ・・・ あ〜〜〜 カカト とれてるぅ〜〜〜 」
「 あちゃ ・・・ これ、折れてますね〜 」
「 あ〜〜 やだあ ・・・ 裸足で帰るしかない か・・・ 」
「 え! あ ぼくのスニーカーでよかったら 」
「 しまむらくん〜〜〜 いいよ いいって。 君はどうするのよ??
それに ・・・ 君の靴・・・私には大きすぎるし 」
「 あ そうですよねえ・・・ どうしよう・・・ そうだ、靴屋でなんか買って来ますよ。
え〜〜 この近所に靴屋ってあるかなあ 」
「 え ・・・ この辺りには ・・・ 」
「 そっか〜 ・・・ あ じゃあ こっちの靴のカカトも取っちゃえば 」
「 できる? そんなこと 」
「 え ええ まあ ・・・ でもいいですか? 」
「 お願い〜〜 やっぱり裸足で帰るのは ちょっと ・・・
」
「 そうですよね。 あの、本当にこっちの、カカト 取ってもいいですか 」
「 お願いします。 」
「 それじゃ ・・・ えっと・・ この辺りで折れば いい か 」
ジョーは ローファーを片手に持つと ― ひょい、とカカトを指でつまんだ。
ぱき。 ― ぽろり。
「 はい。 これなら ― 左右同じくらいの高さかな 」
「 え??? も もう 取っちゃったの?? 」
「 履いてみてくれる? 」
彼はなんだか少し恥ずかしそうに 片方の靴を差し出した。
「 え ええ ・・・ すご・・・! 」
「 どう ? 」
「 大丈夫! ありがとう しまむらクン。 すごい腕力ねえ 」
「 いや ・・・ じゃ これで 」
「 ええ 本当にありがとう! サトウ教授の講義でね〜 」
「 はい。 失礼します 」
半田女史も笑顔で歩きだした ― ・・・ はずだったが。
「 ・・・ いった〜〜〜 ・・・ 足首 ひねったかなァ・・・
う ん ・・・ なんとか歩けるわ ・・・ 電車に乗れば 」
ひょこん ひょこん ― 普段スタスタ歩く道は とんでもなくデコボコだった。
「 ・・・ う〜〜〜 え??? 」
後ろから ひょい、と荷物が持ち上げられた。
「 送ってゆきます。 」
「 ?? し しまむらクン ・・・! 」
「 ほら その荷物、持ちます。 あの ぼくの肩に捕まってください。 」
「 あ ありがとう 〜〜〜 ごめんなさい ・・・ 」
「 そんなこと、言いっこなし。 さあ 行きますよ 」
「 は はい 」
ぎくしゃく ― ぎこちなくジョーと半田女史は歩き始めた。
カサリ ・・・ カサ ・・・
二人の側に 赤だの 黄色だの 茶色になったもの ― 落ち葉が踊っていた。
「 え〜〜と ・・・ こっちですか 」
「 そうよ。 そこの・・・ほら オンボロ工場よ。 ありがとう〜〜〜 しまむらくん! 」
「 あ じゃあ ぼくはここで ・・・ 」
「 ! だめ! こんなとこまで送ってくださった方をそのまま帰すなんて!
私、 父に怒られるわ。 お腹 減ったでしょう〜〜〜 帰っちゃだめ! 」
「 え ・・・ あ〜〜 」
「 ここに居てよ? おと〜〜さ〜〜〜ん!! 私 !! 」
半田女史は 足を引きずりつつ、町工場の中に入っていった。
「 ・・・・ すげ〜〜〜 」
ジョーは 旋盤を扱う老職人の側でひたすら目を見張っていた。
町工場で 彼は半田女史の父親を筆頭に全員に大歓迎をしてもらった。
しきりに遠慮する彼に半田氏は 襟首をつかむみたいな勢いで家の中にひっぱってゆき
「 ウチのじゃじゃ馬が〜 世話になりました。 ありがとう!!
腹 減っただろ? ちょうどオヤツの時間なんだ、君もどうぞ! 」
「 え・・・ 」
「 さあさあ 〜〜 食べて 食べて〜〜〜 」
オヤツ、と言いつつ半田氏はでっかい鉄板を持ちだすと じゅ〜じゅ〜焼肉を始めた。
「 え ・・ あ そ そんな・・・ 」
「 いや〜〜 ウチの職人たちも一緒にたべますから。
皆〜〜〜 オヤツだぞお〜 一休みだあ〜〜 」
「 おう〜〜 」
「 お 今日は焼肉かい いいねえ 」
「 ひゃっほ〜〜 」
古びた工場のあちこちから 様々な年齢の職人、いや従業員たちが現れた。
「 ん? おんや お客さんかい? 」
「 いや 実は〜 」
半田氏が経緯を説明すると
「 兄 ( あん ) ちゃん! ありがとう!!! 」
従業員全員がジョーに礼を言ってくれた。
「 え あ その ・・・ あの ・・・ 」
「 さあさあ 食べて 食べて! このくらい 朝メシ前だろう? 」
「 え あ〜〜 」
大歓迎の < オヤツ > の後 ジョーは工場の見学をさせてもらった。
所謂昔ながらの町工場なのだが ― ここでしか作製できないモノがたくさんあるのだそうだ。
「 あ 悪いね〜〜 一応 企業秘密 なんでさ
」
「 すいません〜〜 ぼくこそお邪魔して・・・ 」
「 その代わりにさ ウチの名人が名人芸 見せてくれっから。
佐波 ( さば ) さ〜ん 頼めるかなあ 」
半田氏が 丁寧に声をかけると、奥の旋盤の前に座っていた老人が に・・っと笑った。
「 おうよ、社長。 おい 若いの、こっちおいで。 」
「 は はい! 」
ジョーは 手招きに応じてすっとんで行った。
そして 佐波氏の < 名人芸 > を とっくと見せてもらったのだ。
「 ・・・ す すげ ・・・ 〜〜〜〜〜 」
「 ははは こんなの、なんでもないさ 」
「 え で でも ・・・ これ 普通の旋盤ですよね? 」
「 あ〜 俺の愛用さ。 もう・・・かれこれ30年以上使ってるかな 」
「 え ?? ぴかぴかですけど・・・ 」
「 そりゃ 手入れしてるからな。 俺の大切な相棒だ。 」
老人は愛おしそうに旋盤を きゅきゅ・・っと磨く。
「 すご ・・・・ すごいです! 」
博士の助手をして ハード面での作業もやっているから 彼はまるっきりの素人ではない。
工具もそれなりに扱い ドルフィン号の修理なども手掛けている。
すごい すごい すごいよ ・・・・!
このヒトのテクニック ・・・ 神技だあ〜〜
― こ こんなとこで こんな仕事 したいな!
いや ・・・ 出来たら最高だよ!
彼は食い入るように 老職人の手元を見つめていた。
「 君、里音ちゃんと同じ学校かい。 」
「 え ええ ・・・ あ ぼく、聴講生で ・・・ ちゃんとした学生じゃないんです 」
「 ふうん? 」
「 興味のある講義を聞かせてもらっているだけなんで・・・ 」
「 ― こういう仕事に興味あるのかい。
」
「 初めて見ました。 すごい ・・・ すごいです! 」
「 そりゃ〜な〜 もう何十年もやってるからさ 」
「 それだけじゃないですよね。 ああ ・・・ 感動しました ぼく! 」
「 ・・・ ありがとうな。 」
老職人は 機械を見つめつつぽつり、と言った。
工場の騒音の中 あちこちからジョーに声がかかる。
「 兄( あん ) ちゃん、 いいヤツだね 」
「 え へへへ・・・ 」
「 そ〜なのよ〜〜 私のこと、わざわざ送ってくれただから 」
「 りおんちゃ〜〜ん いいカレシじゃね〜か。 」
「 山さん〜〜〜 カレシじゃないのよ〜〜 残念だけど 」
「 え〜〜〜 そうなの? アタックあるのみ! 」
「 や〜だ 山さん、 ご迷惑でしょ〜 ごめんね、シマムラくん 」
「 え い いえ ・・・ 皆さん 気さくな方々ですね 」
「 あは あけっぴろげなだけよぉ〜 ヤバンでしょ 」
「 そんなこと ないよ! 」
「 兄さん、俺ら 苦労してるヤツって好きなんだよ 」
「 え ・・・ 」
「 なあ ・・・ ウチの嬢さんさ カノジョにどうかな。
ちょいと鼻っ柱が強いけど 素直で熱心ないいコなんだぜ 」
「 ええ それはよ〜〜くわかりました。 」
「 あ ひど〜〜〜〜い〜〜〜 」
わはははは ・・・ あははは ― 賑やかな笑いの渦が巻き起こる。
えへ ・・・ いいなあ〜〜
皆 この仕事、好きで誇りを持ってるんだな〜
・・・ 温かい。 いいな いいな ・・・
「 ごめんなさい 島村くん〜〜 皆 勝手なこと、言って ・・・
不躾で不愉快でしょ 」
「 そ そんなことないです。 ― 家族的でいいですね 」
「 ウルサイでしょ。 あ 家までクルマで送ってくって・・・ 父が。
シマムラ君、家 どこ。 」
「 あ ・・・ぼく、C市の外れでなんで。 電車で帰りますから 」
「 お〜〜〜 ウチのトラックならすぐさ。 さあ 行くよ 」
「 え え〜〜 あ あのぉ 〜〜 」
半田氏は ジョーの腕を掴むとどんどん引っ張っていった。
「 しまむらく〜〜〜ん ホントにありがとう〜〜〜 」
里音嬢が ぶんぶん手を振っている。
あわわ ・・・ あは ・・・
な なんか ・・・ いい かも ♪
ジョーは 不思議にふわふわした気持ちでいっぱいになっていた。
― コツ コツ コツ。 カツ カツ カツ ・・・
二つの足音が 石畳の道に響く。
黒髪と金髪がならんで歩いてゆく ・・・・
「 ・・・ 僕には才能が ・・・ あるのだろうか ・・・ 」
「 それは ― 自分で自分を信じることだわ。
芸術系の才能は 本当に神様から頂いたものですもの。
その エッセンス の量は ・・・ 誰にもわからないわ 」
「 きみは ・・・ ? 」
「 わたし? そうねえ ・・・ 踊りの才能は そこそこ かな。
でもわたしは バレエが好き。 音楽と一緒に踊るのが好きなのよ 」
「 きみは ステキだよ! ほら ・・・ これ 」
「 わあ ・・・ またデッサンが増えているわ〜〜 」
「 スタジオでのクロッキーから起こしたデッサンさ。 」
「 これ ・・・わたし? 」
「 みんな 君だよ、フランソワーズ。 」
「 え〜〜〜 わたし、こんなにキレイじゃないわ 」
「 君は キレイだ ・・・ ! 踊っている君は 本当に綺麗だよ 」
「 ・・・ユウジ ・・・ 」
「 ・・・・ 」
― 靴音が 止まった。
Last updated : 10,11,2016.
back / index / next
*********** またまた 途中ですが
ジョーくんが ふつ〜に青春しています〜〜
こんな風な出会いもあったのにね・・・
あのヒトも あのヒトも ・・・ で 続きます〜